【コラム】グローバル化が看護師の就業環境に与える影響とは? /書籍「10年後に食える仕事、食えない仕事」

医療福祉の現場では医師や看護師、介護職員の人手不足が問題となっていますね。

転職市場では看護師は売り手市場であり、職場を転々としていたりブランクがあったり、一般の転職市場ではネガティブに捉えられる人材でも、よっぽど仕事内容や条件を選ばなければ仕事が見つからないということはありません。

今後も同じように売り手市場が続くか疑問はありますが、少子高齢化の日本。全体の人口が減少していくなかで、医療福祉サービスを受ける高齢者は増えているため、人手不足の状況はしばらくは変わらないでしょう。

ただし、グローバル化時代のなかで日本人看護師が今と同じような条件で働けるかというのはわかりません。

最近でも、日本と海外の賃金差に関するニュースを目にすることが増えてきました。

今後どのように労働市場が変わっていくのかは考えておくに越したことはありません。

10年後に食える仕事、食えない仕事

「10年後に食える仕事、食えない仕事」という本のなかで、グローバル化時代の日本人の職業に関して警笛をならしています。


10年後に食える仕事、食えない仕事

この本では、グローバル化時代の職業を『スキルタイプ(知識集約型⇄技能集約型)』と、『日本人メリット(メリット小⇄大)』のマトリクスで、以下の4つのカテゴリーに分けて紹介しています。

①重力の世界・・・・・・・グローバルの最低給与水準に収斂される
②無国籍ジャングル・・・・世界70億人との仁義なき戦い
③ジャパンプレミアム・・・日本人ならでは、日本人しかできない
④グローカル・・・・・・・日本人の強みを生かしつつグローバル化に対応

日本人としての強みを活かせる③と④に対して、①と②にカテゴリーされる職業は世界70億人との競争にさらされ、特に①はグローバルの最低給与水準に集約されていくと説明されています。細かい説明は省きますが、看護師は①の重力の世界に含まれています

さらに、重力の世界に属する職業は移転スピードが速い順に以下の3つのタイプに分かれます。

Ⅰ:IT化で瞬時に海外移転
Ⅱ:徐々に移転していく
Ⅲ:国内に残って置き換わる

この中で看護師はⅢの国内に残って置き換わる職業に含まれ、以下のように説明されています。

(中略)看護師と介護福祉士は、フィリピン・インドネシアからの受け入れを2008年に開始した。(中略)インドネシア人の介護福祉士候補者から実際人サービスを受けた利用者(高齢者)に対する調査では、「概ね満足できる水準である」(59.2%)、「日本人よりも質が高い、もしくは十分満足できる水準である」(12.6%)と合わせると、実に約7割が高い満足度を示しており、「普通」(31.1%)まで入れると、103人中101人が普通以上だと答えた(2010年厚生労働省調査)。問題があるどころか、むしろ高いサービスレベルを裏付ける結果となっている。この調査結果は、介護の仕事に日本人メリットがないことを示唆する。簡単に外国人と置き換わってしまうわけである。医師はともかく、補助的な仕事をする看護や介護の仕事ならば、医療ミスのような決定的な状況にもなりにくいために、言葉や文化の壁は乗り越えやすい。やる気のない日本人よりも、モチベーションが高く、しっかり訓練を受けた優秀な外国人を受け入れるのは、サービスを受ける受益者にとっても合理的だ。

その一方で、外国人が何万人という単位で入ってきた分、日本人の雇用が奪われることになる。(中略)本来なら国策として若手を介護や看護の世界に誘導し、送り込まなければならない。それなのに、無策な政府は、なんとも安易なことに、外国人を導入し始めてしまった。世界的に先進国の高失業率が問題化し、次は日本か、という時期にである。今後、「日本人の雇用」とのカニバリゼーション(食い合い)は避けられない。

医療・介護・福祉の分野は、財政が悪化している日本国がサービスの単価を決める仕組みとなっており、少子高齢化による現役世代の負担増で、単価が上がる要素は全くない。白旧激務であるため日本人がやりたがらず、頭数は確実に不足していく。ところが、規制の撤廃によって他業界からの企業の新規参入を認めるなどして合理化、高付加価値化、従業員の高賃金化を進める動きは全くない。

となると、日本の感覚では給料は安くても、アジア系外国人にとってはまだ高いので、外国人の参入圧力は強まる。高齢化が進めば必要な頭数は増えるから受け入れるほかない。そして、重力の法則にしたがって、賃金は限界まで下がっていく→日本人はその賃金ではますます働かない、という悪循環にはまってしまう。

〜「10年後に食える仕事食えない仕事」P76-78 より引用 〜

Ⅲの「国内に残って置き換わる」職業の中でも介護職より看護師の方が置き換わるスピードは遅いと考えられます。重力の世界から抜け出すためにどうするべきか、いくつかの職業についてはグローカルやジャパンプレミアムに進出するための説明がありますが、看護師についてはありませんでした。

現在の労働環境を考えると5年以内に劇的に変わることはないように思いますし、同じ看護師でも、医療機関か介護福祉施設か、内科系か外科系かなどによっても、置き換わっていくスピードは異なると思いますが、10年というスパンで考えれば就業環境は大きく変わっていくでしょう。

看護師として働いている方は、ご自身の長期的な働き方を考えるきっかけとして、ぜひこの本を読んでみてはいかがでしょうか。


10年後に食える仕事、食えない仕事

看護師以外の職業についている人にもオススメです。